中学時代に始めた柔道の魅力に嵌り、格闘技全般が好きになりました。
柔道整復師の資格を取得し、一時期は仕事として取り組んでいました。
柔道、格闘技、トレーニング、治療のことを中心に書いていきます。
よろしくお願いします。

永瀬最強説

技術の継承

パリオリンピックでの永瀬貴規選手の強さは異次元レベルでした。



リオオリンピックを世界チャンピオンの立場で迎え、必ず勝つと思っていましたが敗れました。
私は一番強いのが永瀬選手だと思っていたので、敗戦はある意味衝撃的でした。

その翌年の世界選手権では、3回戦で大内刈りを掛けた瞬間に膝を痛めます。
ここから復活までの苦難は筆舌に尽くしがたいもの。

そこから復活し、東京オリンピックでは金メダル。

その後、若手の台頭やルール改正もあり、結果がなかなな出なくなりました。
復調の兆しが見えたのは2024年タシケントグランドスラム。
ようやくメダルを狙える状況が整ったと感じていました。あくまでもメダル争いに加われるということで、連覇は相当難しいというか無理だろうと感じていました。

しかし、パリオリンピックでの戦いぶりは、想像の遥か上をいく内容。

初戦は実力差もあったので、それほど感じませんでしたが、2戦目のALBAYRAK,Vedat(TUR)選手戦から変わりました。
ALBAYRAK,Vedat(TUR)選手とは何度も対戦していますが、前回の東京オリンピックでも対戦し、丁寧な組手と先手攻撃で完封しました。典型的なパワー系柔道ですが、それを永瀬選手は捌くのが得意。そんな展開を予想していましたが、途中からがっぷり組んで押さえつけに掛かっていました。見ている方はハラハラですが、ALBAYRAK,Vedat(TUR)選手が圧倒されていましたね。

そして準々決勝の大一番。2024年タシケントグランドスラムで敗れたCASSE,Matthias(BEL)選手戦。試合展開の予想は、先手でCASSE,Matthias(BEL)選手が攻め、指導を奪い展開と思っていましたが、永瀬選手が両襟で引き付けると、CASSE,Matthias(BEL)選手は非常に嫌そう。しかも、体力の消耗が激しい。技こそ先手で掛けるものの、効果はほぼなくじり貧状態でした。
あんな姿はなかなか見せないので、かなり驚きましたね。

準決勝は役者が違いました。
そして迎えた決勝、怪物GRIGALASHVILI,Tato(GEO)選手戦です。世界選手権を圧勝で3連覇した怪物相手にどう戦うのか。戦う術はあるのかと思っていましたが、準々決勝を同じような展開で進み、見事な一本勝ち。GRIGALASHVILI,Tato(GEO)選手の調子が悪かったという見方もありますが、あの試合だけを見れば、圧倒的な差があったように感じます。

永瀬選手の柔道は、丁寧に組手を作り、そこから足技を中心に攻める流れでしたが、対戦相手は組手を徹底して持たせず、持たれる前に先手攻撃を仕掛けることで永瀬選手の良さを消しに掛かりました。
悪い時期はこの術中に嵌り、攻めが遅れて指導を受けて負ける展開が続いていたのですが、2024年タシケントグランドスラムから組みながら足が出るようになり、それにより組めるようになる展開が作れていました。
それでも、CASSE,Matthias(BEL)選手のようにそんな状況でも先手攻撃できる選手には敗れてしまいましたが、光明は見えました。
これならメダル争いは出来ると感じた由縁です。
しかし、GRIGALASHVILI,Tato(GEO)選手とは相当差があるとも感じていたのも事実。

そしてオリンピックで披露したNEW永瀬貴規は、想像を遥かに上回る完全体に仕上がっていました。
組手の足技の連動をベースに、先に組み止めるという手として、両襟を選択していたのです。
これまで、永瀬選手の負けパターンは、引手を持つことに拘りすぎて技出しが遅くなり、その結果指導をもらい負けるというものです。
これを組みながら足技を出すことで打開を図り、一定の成果を得られましたが、まだ不十分。
そこで導き出したのが両襟だったのでしょう。


永瀬選手の高校、社会人での後輩となる、同階級の老野祐平選手。
この選手も組手と足技が連動する選手で、基本的な戦い方は組手の左右の違いはあるものの、似ています。
この秘密は、下記に書かれています。





高校時代に徹底して身につけた、組手と技の連動。投げ切る技術。
これを磨き上げた結果が、パリオリンピックでの連覇に繋がったのだと思います。

長崎日大の松本監督は私の高校の後輩ですが、このような素晴らしい指導ができるのは何故なんだろうと思った時、ふとしたことで下記の記事を読み繋がりました。




松本監督の小学生時代、トレーニングと技の反復練習、そして3人打ち込みと投げ込みを繰り返し行っていたそうです。これは私も見ていました。
基本、基礎の繰り返しです。
これが役立っているのを、身をも持って知っていたのでしょう。
これを自身の指導にも役立てているように感じます。




2023年の全国中学生柔道大会で印象的なシーンがありました。



男子団体戦のEブロックリーグ戦第1試合 東海大相模(神奈川)対芳野(富山)戦。
芳野(富山)の監督が松本監督の小学生時代の恩師(私の恩師でもあります)です。
相手は東海大相模です。恩師も松本監督も、もちろん私も中学と高校の違いはありますが、ライバルと感じていた学校です。試合は東海大相模の圧勝でした。

そして次の試合には長崎日大が登場します。
もちろん監督は松本監督。さらに松本監督のご子息も試合に出場します。
東海大相模に敗れ、控えから下がる恩師と教え子の松本監督がすれ違う。
会話があったのかは分かりませんが、そこは二人だけ分かるものがあったのかも知れません。



恩師は翌年で指導者としての活動に区切りをつけると話していたそうです。
それを聞いていただけに、このニアミスは神様の配慮のように感じました。

まるで恩師から松本監督へ、「後は頼んだぞ」と言っているような感じ。
そこには松本監督の息子もいる。

当時はそんなことを考えていたのですが、永瀬選手の優勝を見た時、ふとこのシーンが思い浮かび、永瀬選手の戦い方の根本て、松本監督の小学生時代に遡るんじゃないのかと感じてしまいました。

何だか凄いシーンを目撃したようで、自分自身が舞い上がってしまいました。
永瀬最強説の源は、ここだったのかと。

これこそが技術の継承なんでしょう。

今年、偶然にも恩師に会える機会ができましたので、会ってこの話を聞いてみたいと思います。




パリオリンピック柔道競技振り返り

パリオリンピックの柔道競技が終了しました。
初日の60キロ級、48キロ級から始まり、最終日の男女混合団体戦まで、悲喜こもごもの色々な展開がありました。
そしていつも通りの誤審騒動。
それらを踏まえて個人的見解を残したいと思います。

あくまでも私個人の見解であり、他にも色々な意見があると思いますので、その点ご理解ください。






7月27日
男子60キロ級 女子48キロ級

永山竜樹選手
永山選手は、良くも悪くもいつも通りでした。これまで、世界選手権の代表になっていますが何れも優勝を勝ち取れませんでした。
柔道の純粋な力は、階級随一なのは疑いがありませんが、試合に勝つという点では別。
相手どうこうではなく、自分の良いところで勝負するという考えのようですが、理想的な考えではあるものの、それではなかなか勝てないのが今の柔道競技。
これは過去の世界選手権で痛いほど実感できていたはずです。ここを修正すれば、無敵の選手になるのではと思います。
格下の初戦の相手にあそこまで苦戦したのは、相手を理解していないからだと思います。

そして問題の準々決勝。
別途記事を書いていますので、そちらも見ていただければと思います。




上の記事でも書きましたが、主審の判断、ジュリーのコントロールが一番の問題だったと思います。
状況的に、あの状態で待てを掛けるかというところも判断が分かれるところ。
寝技の待ては、膠着状況になったら待てです。その点、かなりの時間袖車絞めをしていたにも関わらず、変化が無かったので、判断は分かれると思いますが待ては妥当に感じます。
待てを掛けた時点で落ちて(失神して)いたら一本ですが、主審の声が聞こえなかったということで、手を放さなかった。そのため、永山選手が落ちてしまった。原因は待ての後の絞めにあるのは間違いありません。であるならば、これで一本を宣言するのは違和感が残ります。
この状況に入る前、相手は明らかに袖車絞めを狙っていました。ワールドツアーではスタンダードになりつつある技術です。永山選手の動きを見ていると、この攻撃に対する対応や警戒がまったく見られなかったので、この技術自体を知らなかったのではないかと思います。
ここに相手を研究しないという落とし穴があったと思います。
仮に一本が取り消されたとしても、あのまま行けば永山選手は勝てなかったと思います。
でも、その後敗者復活戦、3位決定戦と勝ち上がったのは凄いことです。メンタル崩壊していたはずですが、それを見事に跳ね返し、メダルを確保。
これは実力がなければできることではありませんので、強さの照明だと思います。

角田夏実選手
強いの一言です。
技は基本的に巴投げと十字固めです。なぜ、これだけで勝ち続けられるのか。来ると分かっていても掛かってしまうのはなぜか?
私も同じように思っていましたが、準々決勝の試合を見てふと思いました。
巴投げというひとつの技ですが、入り方はすごいバリエーションがあります。
角田選手の巴投げは、真捨て身の巴投げ。ケンカ四つよりは相四つの方が入りやすい技です。
一般的には下がりながら撃つ技をいうイメージが強いと思いますが、角田選手は相手を追い込む巴投げです。さらに、巴投げを打ち込む時、相手の受け方に応じ入り方を変えています。準々決勝ではケンカ四つの相手に対し、相手の正面に立ちにくい。そこで通常鼠径部(腿の付け根 股関節のあたり)に当てる足を、腰骨の近くにズラしていました。真捨て身の巴投げというよりも、横捨て身の横巴投げに近かった。巴投げという一括りの技でも、技術はたくさん。いわば、七色の巴投げです。
それにも関わらず、相手は巴投げという広義のひとつの技で受けてしまうので、やられてしまうのではないでしょうか。巴投げでありながら巴投げではないといった感じでしょうか。
そして、角田選手は相手を良く研究するそうです。そこに七色の巴投げを打ち込むのですから、相手はたまったもんではありません。
単純に巴投げだけと言うべきではないのだと思います。
本当に強かった。


7月28日
男子66キロ級 女子52キロ級

阿部一二三選手
一二三選手も異次元の強さを発揮しました。特に小外刈り、大外刈りが効果的で、これがあるために前の技が効く。そして相手が距離を潰し、密着戦を挑んできた時には大腰、大内刈りだ叩き落とす。
基本的なフィジカルの強さが相手を上回っていたのが一番の長所だったと思います。
あのプレッシャーの中、簡単に(簡単ではないのですが、そう見える)勝ってしまう。常人ではありませんね。
個人的には、73キロ級に上げて戦うところを見たいです。

阿部詩選手
負けることは想像つきませんでしたが、結果的には負けました。詩選手は基本的に先手の選手だと思います。負けた試合も、相手を上回るスピードで組み、先に技を掛け、投げてしまう。
ところが、負けた試合でも同じような展開で進んでいましたが、時折相手の密着を許す場面がありました。密着されても、瞬時の対応で何とか出来ていたのですが、投げられた時はその対応を誤りました。正確には誤ったというよりも、遅れたというのが正しいかもしれません。相手の密着に対し、それを内股で切り返そうとしていましたが、既に体幹を捉えられてしまい、体を回せなかった。
あの反応の早い詩選手が対応に遅れた。
ひとつは相手の対応が上手かったのだと思います。詩選手は間違いなく天才型です。天才が努力したのが詩選手だと思います。それだけに、瞬時に対応をすることができてしまうので、密着を志向する相手に付き合ってしまたように思います。密着されても何とかなるだろうと思っていたのではないでしょうか。
そして、試合後の振る舞いについて。
第一印象は、あそこまで場所を考えず泣きじゃくることに違和感を覚えるのと同時に、それまでの連覇へのプレッシャー、良い意味でのわがままさを感じました。
悔しくて泣くのは仕方ないことですし、目指していたことが達成出来ないと感じた時の虚無感は本人しか分からないと思います。泣くこと自体は悪くないです。でも、場所を考えないと良くなかったなと感じました。試合進行の妨げにもなりますから、控室で思い切り泣けば良かったなと思います。詩選手も後に良くなかったとコメントしていましたので、その点は良かったですね。
会場の観客からの詩コール。今まで、負けた選手に対してあのようなコールが起きたことはあったでしょうか?記憶にありません。それだけみんなに愛された選手だったのだと思います。


7月29日
男子73キロ級 女子57キロ級
橋本壮市選手

目一杯やったと思います。現在のルールは橋本選手の柔道と逆行するようなものなので、そこへのアジャストに労力を割かれたように思います。最後の指導は今のルールで明確な指導の対象。それまでに指導2を貰ってしまったので、反則負けは仕方ないです。
橋本選手は組手が生命線なので、組手の指導をもらうのはある程度仕方ないです。この場合、相手が組手をすっ飛ばし、パワーで来る相手が苦手ですが、負けた準々決勝はまさにこのパターンに嵌り、最後は力尽きてしまった感じです。
長い間の選手生活、悔しい思いも多かったと思いますが、次のステップでの活躍を期待したいと思います。

舟久保遥香選手
得意の寝技は安定し、立ち技の強さも身につけましたが、それ故立ち技に付き合いすぎたのかも知れません。負けた準々決勝の試合では、先手を取られたのが痛かった。その後の勝ち上がりは見事でした。
この階級は日本に所縁のある選手が多く、手の内が知られています。そこを上回る強さがないとダメだと思います。絶対的な寝技という武器がありますので、そこに繋げる立ち技を身につける。角田選手のようなこうなれば取れるという、絶対の形作りが欲しいところです。


7月30日
男子81キロ級 女子63キロ級
永瀬貴規選手

試合が始まる前は、勝てるなんて思っていませんでした。あれっと思ったのは3回戦。前回のオリンピックでも対戦し、組手で翻弄した試合でしたが、今回は力勝負を挑んでいました、見ながら冷や冷やしましたが、それでもしっかり勝ちました。
続く準々決勝は先手攻撃を受け、指導累積で負けてしまうかもと危惧していましたら、両手襟での組手での圧の掛かり方が尋常ではなかったです。あれだけスタミナ豊富な相手が、本戦途中でスタミナが切れ始めていた。今まで、引手に拘り、切り離されて、攻めが遅れて指導をもらって負けるパターンだったのが、足技と組手を連動させ良い流れが出てきましたが、それでも勝てるイメージは持てませんでした。引手に拘る柔道から、相手を捕まえる柔道にスイッチし、技出しも早くなり、一気に柔道がおyくなりましたね。東京オリンピックの時は負けるイメージがありませんでしたが、今回はそれ以上だったと思います。
ストイックな永瀬選手。次は全日本選手権で優勝する姿を見たいですね。
なぜ、永瀬選手が強いのか、源は高校時代にあると言うことです。
下記にその秘密が書かれていますので、興味のある方はぜひ。



81キロ級2連覇は初とのことです。
試合が終わってもほぼ表情を変えず、試合場を下りてから吠える姿が印象的でした。

髙市未来選手
3回目のオリンピックも結果は残念でした。何となく、恐々と柔道しているように感じました。
なぜ勝てないのか不思議な選手です。負ける時は、待ってしまっているように思います。
ある意味、思い切りのない柔道に終始してしまったかのようでした。
そして、この階級は、一部の強豪選手とそれ以下の選手の差が大きかったのですが、混戦状況になりつつあります。この局面に対応出来ないと、勝つことは難しくなってくると思います。


7月31日
男子90キロ級 女子70キロ級
村尾三四郎選手

村尾選手は決勝以外は盤石でした。調子も良かったと思います。それだけに決勝の最後は密着で勝負を挑んでしまったのだと思います。
あちこちで誤審騒動となった村尾選手の内股。
相手選手は尻もちを着き、右ひじを着いています。相手の引手(左手)は直前の映像で襟を握っており、放している様子はありませんので、左手は着いていないように見えます。
その後、一旦技の継続が止まり、方向が変わって背中を相手選手が着きました。

下記の引用が2021年12月に示されたIJF審判規程の変更点の抜粋です。
変更点1:
★技を掛け始めてから中断せず、継続した動きの中で投げ技が決まり、その技がスコアを与
える基準を満たしている場合はスコアを与える。ただし、技が中断した場合はスコアの対
象としない(ノースコア)。
変更点2:「技あり」の基準1
★体側全体が 90 度以上背中側が接地した場合、「技あり」とする。
★体側全体が(90 度以上背中側に傾いて接地した場合)肘が外側に出ていてもスコアを与
える。
★「体側の全体」は「腰」と「肩」のポジションをみること。
補足※今までは引手を引いて肩が付いていれば多少は体がうつ伏せ気味でもスコアにして
いたが体が直上から見て 90 度かどうかで見極める。
変更点3:技有の基準2
★片方の「肩」及び「背中上 部」が接地した場合「技あり」とする。
 補足※一部分が畳に接地していればスコアとして認める。
変更点4:「技あり」の基準3
★「受」が同時に両手、両肘または片肘・片手をついた場合、「取」に「技あり」を与える
と 共に「受」にも指導を与える。
 補足※寝技の攻防に移った場合「受」が有利になったら「待て」。累積指導 3 になった
場合は反則負けを優先させる。 

技ありではない根拠
①投げられた選手(受)が同時に両手、両肘または片肘・片手をついた場合に技ありを与えると書かれていますので、今回の片肘だけでは技ありになりません。映像では左手の着地が明確には見えませんでしたが、ビデオチェックを同時進行で行っており、そこからの指摘が無かったことから左手は着いていないということだと思います。
②技を掛け始めてから中断せず、継続した動きの中で投げ技が決まることが技ありの要素になりますが、今回は右肘を着き、尻もちだけで一旦動きがストップしています。そこから村尾選手が投げた方向と逆(左方向)に押し込みつつ背中を着かせており、継続性がありませんのでノーポイントです。

この辺りは、普段柔道を見ている方でも、ルールを正しく理解していなければ分かり難いと思います。審判ライセンスを持っていても、理解できていない人もいますので、一般の方が理解できないのは仕方ありません。

最後の技ありの場面は、相手の一番強い形に飛び込んでしまいました。村尾選手もその点を反省していましたね。
同年代の偉大なライバルとの対決。これからもいい試合を見せてくれると思います。(やっている方は、大変でしょうが)

新添左季選手
新添選手の強さも折り紙つきですが、肝心な勝負所で悪い面が出てしまいました。印象的には永山選手の敗退理由と重なる部分があるように思います。
柔道の力では他の選手を圧倒する新添選手ですが、試合となるとその力全てが発揮できるとは限りません。負けた試合は実力を発揮できずに負けた印象です。攻めが単調になり、取り切れませんでした。
様々な選手がいる中、自分の強い面で勝負するのはセオリーですが、それだけでは勝てません。戦略と言う点でもう一工夫必要だった気がします。


8月1日
男子100キロ級 女子78キロ級
ウルフアロン選手

この日のウルフ選手の状態は良かったと思います。1回戦、2回戦とも完勝し、勝負どころの準々決勝に挑みましたが、早々の失点を挽回できませんでした。相手の巴投げはもう一回早く指導を取ってくれれば状況は変わったと思いますが、こればかりは仕方ありません。相手が一枚上手でした。
敗者復活戦は目に見えない色々な駆け引きがあったのだと思います。
東京オリンピック後、引退せずに復帰を選び、ギリギリの瀬戸際の状況から2大会連続の代表を勝ち取ったのは見事でした。これで引退するようですが、違った形で柔道界への貢献を期待しています。

髙山莉加選手
髙山選手らしい、思い切りのよい柔道が見られなかったのが残念です。特に準々決勝はそれが顕著だったと思います。オリンピックという場は、想像以上のプレッシャーが掛かるのでしょうね。
その中でも敗者復活戦の釣腰は見事でした。これぞ髙山選手らしい投げ技でした。
全体的に、もっと割り切って寝勝負を続けたら良かったのにと思いましたね。
準々決勝の最後の指導は完全な首抜き。

11.相手の腕の下から首を抜き(ダッキング)、直ちに攻撃を行わない場合。
これも相手の圧力が高かったために起きたのでしょう。指導を受けるのは仕方ありません。

8月2日
男子100キロ超級 女子78キロ超級
斉藤立選手

初戦の左内股は驚きました。個人的に初戦敗退も十分にあり得ると思っていただけに、あそこまで完璧に勝つとは思いませんでした。準々決勝は時間が掛かったものの、内容は完勝。以前負けた相手だけに、やや慎重になるのは致し方ありません。
準決勝は組手の速さに差がありましたね。捕まえきれず、やりたい放題でした。3位決定戦は負ける相手ではないと思うのですが、苦手意識があるのでしょうか。それとも準決勝で敗れたショックでしょうか。
正直、準決勝以降の試合は物足りない内容でした。どちらかというと自分の柔道を押し付けることを優先し、相手の嫌がることができていなかったように思います。
以前、山下泰裕先生が「相手の弱いところに自分の強いところをぶつける」と話していたそうです。(「山下泰裕勝つ心」)
それができていなかったように思います。簡単なようで難しいことですからね。

RINER,Teddy選手の準々決勝
谷落としで一本を取った後、相手がいきなり草刈で倒し、激高。
映像で見る限り、投げた後に喉元を押したのではと書かれていたりもしましたが、そのようには見えませんでした。
音声が無いので分かりませんが、強敵に一本勝ちした際に、喜んでいた姿や声を相手が聞いて、瞬間的にスイッチが入ったように思います。RINER,Teddy選手も倒されるときに敢えてガッツポーズをしているようにも見えますし、その時に何か話してもいます。
0:10で相手が悪いとは言いませんが、先に手(足)を出した相手が悪いのは当然の判断ですね。
主審がそばで見ていたので、騒動のきっかけをRINER,Teddy選手が起こし、それが許容範囲と判断されれば、メダルはく奪もあり得ると思いますが、どうなんでしょうか。

素根輝選手
連覇に挑んだ素根選手ですが、コンディションが最後まで整わなかったようです。東京オリンピックが10とすれば、現在は5か6のイメージ。
安定化に欠け、足が出ない。本人も苦しい戦いだったのではないでしょうか。
78キロ超級では体の小さい素根選手ですから、フィジカルが整わなければ厳しいです。
まずは、ケガをしっかりと治して欲しいですね。


8月3日
男女混合団体戦

初戦、いきなりスペインと代表戦に縺れるとは思いませんでした。
辛うじて代表戦で勝ち上がりましたが、ここで負けてもおかしくなかった。事実阿部詩選手は技ありを先行されていましたので、これを取られていたら敗戦だったところです。
ここを何とか勝ち抜いたので、運は日本に味方していると感じていました。
準々決勝のセルビア戦では、永瀬選手が見せます。相手も90キロ級で世界チャンピオンになり、2024年の世界選手権でも2位になった選手。何もさせず、指導3つを押し付けて完勝です。永瀬最強説。
阿部一二三選手も同階級ながら手足身長とも大きく、個人戦で台風の目になった相手を一蹴。
ウルフ選手の寝技の返し方は、国際大会で決まるんだと思わされるもの。
準決勝もドイツを完封。
良い流れで決勝に挑みます。

決勝のオーダーを聞いて、ビックリすると同時に期待できるものでした。
角田選手と阿部一二三選手が入り、永年の宿敵と対戦する髙市選手もメンバー入り。

決勝オーダー
日本 対 フランス
男子90キロ級 村尾三四郎 (  ) NGYAP HAMBOU,Maxime-Gael
女子70キロ超級 髙山莉加 (  ) DICKO,Romane
男子90キロ超級 斉藤立 (  ) RINER,Teddy
女子57キロ級 角田夏実 (  ) CYSIQUE,Sarah Leonie
男子73キロ級 阿部一二三 (  ) GABA,Joan-Benjamin
女子70キロ級 髙市未来 (  ) AGBEGNENOU,Clarisse

戦前の私の予想は、
男子90キロ級 
村尾選手の勝ち
女子70キロ超級 
階級落ちの髙山選手は厳しいので負け
男子90キロ超級 
王者相手に斉藤選手も厳しいので負け
女子57キロ級 
最初の対戦で角田選手の巴投げをかわせない。さらに攻撃思考の相手にハマるので角田選手の勝ち
男子73キロ級
阿部選手が投げて勝つ
女子70キロ級
最後は髙市選手がライバルに勝って、3度目のオリンピックで初の金メダル獲得を自分で決める

こんな展開をイメージしていました。
実際には
男子90キロ級 
予想通り
女子70キロ超級 
まさかの髙山選手優勢勝ち
男子90キロ超級 
予想通り
女子57キロ級 
予想通り
男子73キロ級
取り切れずに敗戦
女子70キロ級
惜しくも勝てず

代表戦
男子90キロ超級
というような展開。
90キロ級は時間が掛かったものの、村尾選手がしっかり取って良いスタート。
70キロ超級は、始まる前に相手選手が不安そうな表情に見え、ひょっとしたらと思いましたが、始まったら圧力が凄い。早々に指導3つ貰うかと思いましたが、大内刈りが決まったシーン。ぶら下がりかけた瞬間に潰されていたら、指導が出たと思いますが、潰さなかった。ここが一つのターニングポイントでした。
90キロ超級は仕方なし。取れる雰囲気はあまり感じず。
57キロ級は、相手の前に出る圧力は強いものの、角田選手も引けを取らず対応し、巴投げを打ち込み、徐々に修正し、最後は投げ切りました。文句なしの一本でしたが、念のための映像確認。
73キロ級は、さすがヒーロー、美味しいところを持って行くと思っていましたが、相手選手の粘りもありなんと一本負け。何度も投げるチャンスはあったように感じましたが、66キロ級と体幹の強さの違いがあったのでしょう。阿部一二三選手は、これを経験し、さらに強くなるのではないでしょうか。
阿部一二三選手が負けたことで追い詰められたものの、髙市選手のためのお膳立てが整ったと思っていました。
70キロ級の髙市選手は、良い組手で淡々と試合を進めていました。良い攻めもありましたが、決め手を欠き延長戦へ。延長に入り、やや組手の管理が甘くなり、不用意に技を受けることが目立ち、最後は技ありを奪われます。なかなかシナリオ通りには行きませんね。
代表戦は抽選の結果、90キロ超級。
斉藤選手は自分に回って来いと念じていたとか。

90キロ超級が選ばれ、ここでRINER,Teddy選手に勝てと斉藤仁先生が言っているのかもと思いましたが、結果は善戦空しく一本負け。
フランスの英雄RINER,Teddy選手に持っていかれましたね。

途中、予想外の試合は合ったものの、流れは日本の勝利でした。
73キロ級の踏ん張りがフランスには勝利を呼び込みましたね。私的には髙市選手が有終の美を飾るお膳立てが整ったと思っていたのですが。


それにしても、普段柔道を見ない方まで注目されていたように感じます。
これ自体は嬉しいことです。
しかし、ルール含め周知やその他もろもろIJFも考えなければならないこともあると思います。
そんな課題が残るのはいつものことです。

とにかくおもしろい大会でした。

個人的には
①角田選手の圧勝&団体戦の活躍
②阿部一二三選手の圧勝&73キロ級の壁
③永瀬貴規選手の変貌 永瀬最強説&永瀬すぎる
の3つ。
もちろん阿部詩選手の敗退もセンセーショナルでしたが、あり得ない話ではなかったと思います。
書ききれないこともありますが、ひとまずこんな振り返りで。






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